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甲の罪責
200万円を乙に指示させて、自己の支配するB社の口座に振り込ませた行為について
業務上横領罪が成立。口座に振り込ませた段階で既遂。
①業務 → 金銭の出納の権利
②占有 → 銀行通帳、印鑑、暗証番号 法律上の占有でよいから、占有はある。
委託関係→委託あり。
③不法領得の意思 → あり。自分のため。
④領得行為 → 80万円をB口座に振り込ませた行為。120万円については、横領罪不成立。
乙に指示した段階では、まだ、既遂ではない。
A名義の口座に金銭は保管されているのであり、乙への指示だけでは、乙がそのとおりに行動するかどうかも分からないことなどを踏まえれば、横領の既遂とまでは評価できない。
⑤故意 → あり。正犯意思もあり。
乙が気づいている点は、甲の正犯性を失わせない。(乙は、甲の部下。計画をたてたのも、甲。
利益を得るのも、甲。甲にしか業務の身分が認められないこと。委託信認関係に反することが横領罪では重要であること。
故意ある幇助的道具の裁判例もあり。)
なお、120万円について、客観的には横領罪の教唆であり、重なりあう犯意で横領罪の教唆という考え方もありうるが、不当。
乙の犯意は、甲に教唆されたものというよりは、自発的に形成されたものと評価すべき。
乙は、甲の指示にむしろ反した行為を行っており、甲の指示を裏切っている。
※80万円についての電子計算機器詐欺又は窃盗罪の成否
乙を通じて金銭を引き出した訳ではないので、窃盗罪は不成立。
①虚偽の情報又は不正な指令 → そもそも、乙には、B口座に振り込む権限なし。要件満たす。
②人の事務処理に使用する電子計算機→銀行のATM
③不実の電磁的記録、、、→B口座に振り込みがあったかのような記録がなされるため、要件を満たす。
よって電子計算機器詐欺が成立。
「分かった。お前の下ろした120万円は今回は何とかしてやるが,もう二度とこんなこと
はするな。」と言って見逃した行為などについての背任罪の成否
①任務 → 金銭の出納の管理 横領を見つけたら、返還を求めるべき任務。
②違反 → 見逃した行為が①の任務に違背。
③財産的損害 → 120万円の返還を受けられないこと
④図利加害目的 → 自己の犯罪の発覚を免れるため。
乙の手首をガムテープで縛って、トランクに入れた行為
監禁罪、暴行罪の構成要件に該当。
しかし、同意があり、違法性阻却。(呼吸ができることも確認しており、手段が身体に重大な危険を及ぼすという訳でもなく、
同意も真摯なもの。違法な目的であるが、個人的法益の保護のための犯罪であることから、目的の違法性に左右されるべきではない。)
匿名で警察に電話をかけて通報し、乙に強盗にあったといわせた行為
偽計業務妨害罪の共同正犯が成立。甲と乙の間の共同正犯。丙については、事情を知らされておらず、共同正犯にならない。
偽計→ 強盗にあったというのは、嘘
業務→ 警察の業務が含まれるかの論点。含まれる。警察といっても、偽計に対してまで対策が炊けているわけではなく、威力と同等に考えることはできない。
妨害→ 抽象的危険犯。実際に妨害されたことまでは不要。妨害行為があれば既遂。信じたか否か、捜査をしたか否かにはかかわらない。
共謀→甲と乙との間で事前の共謀あり。正犯意思あり。共謀に基づく実行行為あり。
証拠偽造罪については、調書の作成にまで至っていたとしても、不成立。(偽証罪のみを処罰する趣旨との地裁判例。)
乙の罪責
80万円を,甲の指示どおりAの口座からB社の口座に振り込んだ行為について
(1)業務上横領の幇助犯。まず、①乙は、甲の部下。②80万円については、専ら甲のために使われる。③甲が占有していたこと、④計画を立てたのも甲。
したがって、乙には、正犯意思がなく、乙を正犯とは評価できない。甲を正犯と評価すべき。
共犯と身分の問題については、
幇助犯の成立には、身分は要求されていないから、業務上横領の幇助犯が成立すると考える。
(2)80万円について銀行に対する電子計算機器詐欺罪の幇助
幇助犯成立
120万円を引き出した行為
(1)銀行に対する窃盗罪
成立。引き出し権限がない。
銀行は478条で保護されるから、被害者ではない?
権限がないことを知っていれば、引き出しには応じないのが通常。銀行の意思に反している。
120万円を自分の債務の弁済に充てた行為
(2)横領罪成立
①占有→ 銀行通帳、印鑑、暗証番号 →占有あり。
委託関係→甲からの委託あり。Aからの委託ではないが、甲はAから委託されているため、ok。
②不法領得の意思 → あり。自己の借金の弁済のため。
③領得行為 → 引き落とした時点か、それとも、120万円を振り込んだ時点か。
A社は、現金での貸付もあったということだと、引き落としただけでは、ダメで、振り込んだ時点で既遂ではないか。
④故意 → あり。
※業務上横領は不成立。業務性がない。営業さんにすぎない。
120万円について「私の分も何とかしてくださいよ。」と言った行為
(3)犯人隠避の教唆?犯人隠避の共同正犯?
本犯なので、犯人隠避についての正犯意思がない。共同正犯は成立せず。
犯人隠避の教唆犯は成立。(期待可能性がないとはいえない。)
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